🎓 高校生にもわかる正準量子化(Canonical Quantization)

💡 そもそも「量子化」って何?

正準量子化を理解するためには、まず「量子化」という大きな枠組みを知る必要があります。

私たちが学校で学ぶ物理学には、大きく分けて以下の二つがあります。

  1. 古典物理学: ニュートンの運動法則など、目に見える大きさの世界(ボールの動き、車の運転など)を記述する物理学。エネルギーや位置は連続的に変化すると考えます。
  2. 量子力学: 原子や電子など、非常に小さなミクロの世界を記述する物理学。エネルギーや物理量は飛び飛びの(離散的な)値しか取れないと考えます(これを量子と呼びます)。

量子化とは、この古典物理学のルール(古典論)に従っている系を、量子力学のルール(量子論)に従う系へと変換する手続きのことです。古典的な世界観から、量子的な世界観へと橋を渡すイメージです。

🌉 正準量子化とは?

正準量子化(せいじゅんりょうしか、Canonical Quantization)は、この量子化を行うための最も基本的な方法です。

これは、古典物理学の中でも特にハミルトン形式という洗練された形式論(古典的な運動を「位置」と「運動量」の関数で記述する方法)をベースにしています。

1. 古典物理学での準備(ハミルトン形式)

古典論では、物体の運動は「位置」と「運動量」という一組の変数で記述されます。これらの変数が時間の経過とともにどのように変化するかを支配しているのが、「ポアソン括弧」という特別な計算ルールです。

例えば、位置 $q$ と運動量 $p$ の間のポアソン括弧は、次のように定義されます。

$$\{q, p\} = 1$$

この「1」という値は、位置と運動量が互いに独立で、それぞれが系の状態を記述する上で基本的な役割を担っていることを示しています。

2. 量子化へのステップ(基本交換関係)

正準量子化の核心は、この古典的なポアソン括弧のルールを、量子力学における「交換関係」という新しいルールに置き換えることにあります。

古典物理学(古典論)量子力学(量子論)
物理量数値(関数)演算子(行列)
関係ポアソン括弧$\{A, B\}$交換子$[\hat{A}, \hat{B}] = \hat{A}\hat{B} – \hat{B}\hat{A}$

この置き換えのルールは、以下の通りです。

$$\{A, B\} \rightarrow \frac{1}{i \hbar} [\hat{A}, \hat{B}]$$

ここで、

  • $\hat{A}$ や $\hat{B}$ の上に付いている $\hat{}$ は、それが演算子であることを示します。
  • $i$ は虚数単位($i^2 = -1$)。
  • $\hbar$(エイチ・バー)はプランク定数を $2\pi$ で割った値で、量子力学の基本的な定数です。

このルールを、古典的な $\{q, p\} = 1$ に適用すると、量子力学における基本交換関係(Fundamental Commutation Relation)が得られます。

$$\frac{1}{i \hbar} [\hat{q}, \hat{p}] = 1$$

これを整理すると、次の重要な式になります。

$$[\hat{q}, \hat{p}] = \hat{q}\hat{p} – \hat{p}\hat{q} = i \hbar$$


🌟 正準量子化の持つ意味

この基本交換関係が意味するところこそ、量子力学の最も不思議で重要な側面のひとつです。

古典論では、位置 $q$ と運動量 $p$ は同時に正確に決めることができる($qp – pq = 0$)と考えます。しかし、量子力学では交換しても $i \hbar$ だけ差が出る($\hat{q}\hat{p} – \hat{p}\hat{q} = i \hbar \neq 0$)ことになります。

これは、位置と運動量を記述する演算子は、順番を入れ替えることができないことを示しています。もし位置を正確に測定しようとすると、運動量は不確かになり、逆に運動量を正確に測定しようとすると、位置は不確かになります。

この性質こそが、有名なハイゼンベルクの不確定性原理(位置の不確かさ $\Delta q$ と運動量の不確かさ $\Delta p$ の間には $\Delta q \Delta p \ge \frac{\hbar}{2}$ という関係がある)の数学的な根拠となっています。

📝 まとめ

正準量子化は、

  1. 古典論のポアソン括弧 $\{q, p\} = 1$ のルールを、
  2. 量子論の交換関係 $[\hat{q}, \hat{p}] = i \hbar$ のルールに置き換える

という手続きにより、古典的な物理系を量子的な物理系へと変換する基本的な方法です。この置き換えが、ミクロの世界の奇妙な性質(不確定性原理)を導き出します。

コメント