ネーターの定理とハミルトニアン(エネルギー)は、物理学における「対称性」と「保存則」を結びつける極めて重要な関係にあります。
一言で言えば、「ハミルトニアンとは、時間並進対称性(時間のズレに対する不変性)に対応するネーター・チャージである」といえます。
この関係を、3つの視点から整理して解説します。
1. ネーターの定理と時間並進対称性
ネーターの定理によれば、「作用が連続的な対称性を持つとき、それに対応する保存量(ネーター・チャージ)が存在する」とされています。
- 空間並進対称性(場所をずらしても不変) $\rightarrow$ 運動量 $P$ が保存
- 回転対称性(向きを変えても不変) $\rightarrow$ 角運動量 $L$ が保存
- 時間並進対称性(時間をずらしても不変) $\rightarrow$ エネルギー(ハミルトニアン $H$) が保存
つまり、系の性質が時間によって変化しない(ラグランジアン $L$ が時刻 $t$ に露わに依存しない)場合、保存されるネーター・チャージとして導出されるのがハミルトニアンです。
2. 生成子(Generator)としての役割
ハミルトン形式において、ネーター・チャージ $Q$ は単なる保存量であるだけでなく、その対称性変換を引き起こす生成子としての役割を持ちます。物理量 $A$ に対して、ポアソン括弧(または交換関係)を用いると次のように書けます。
$$\delta A = \{A, Q\} \epsilon$$
ここで、対称性が「時間の移動($t \rightarrow t + \delta t$)」である場合、対応するチャージ $Q$ はハミルトニアン $H$ となり、式は以下のようになります。
$$\frac{dA}{dt} = \{A, H\}$$
これはハミルトンの運動方程式そのものです。つまり、「ハミルトニアンは、系を未来へと時間を進ませる(時間移動させる)ためのネーター・チャージである」と解釈できます。
3. 正準形式における定義
ラグランジアン $L(q, \dot{q})$ からルジャンドル変換によってハミルトニアンを構成する際、その形はネーター・チャージの定義式と一致します。
一般に、無限小変換 $\delta q$ に対するネーター・チャージ $Q$ は以下のように書けます。
$$Q = \frac{\partial L}{\partial \dot{q}} \delta q – (\text{全微分項による補正})$$
時間並進 $\delta q = \dot{q} \delta t$ を考えると、導出される保存量は次の通りです。
$$H = p \dot{q} – L$$
これがまさにハミルトニアンの定義であり、エネルギーが保存量であることを示しています。
まとめ
| 概念 | ネーター・チャージ (Q) | ハミルトニアン (H) |
| 対応する対称性 | 任意の連続的対称性 | 時間並進対称性 |
| 物理的性質 | 保存量 | エネルギー |
| 役割(生成子) | 対称性変換(回転、移動等)を生む | 時間発展(未来への移動)を生む |
ハミルトニアンは、数あるネーター・チャージの中でも「時間」という最も基礎的な変数に付随する、特別なチャージであると言えます。
次へのステップ:
この関係をさらに深く理解するために、「量子力学における交換関係 $[A, H]$ を用いた時間発展」や「場の方程式におけるエネルギー・運動量テンソルとチャージの関係」について詳しく解説しましょうか?
ハミルトニアン密度とネーターチャージはどのような関係がありますか?
場の量子論や古典場の理論において、ハミルトニアン密度とネーター・チャージの関係は、エネルギー・運動量テンソル(エネルギー・モーメンタム・テンソル)を通じてより一般化された形で理解されます。
結論から言うと、「時間並進対称性から導かれるネーター・カレント(保存流)の 0 次成分(時間成分)がハミルトニアン密度であり、それを全空間で積分したものがネーター・チャージ(=全エネルギー)である」という関係にあります。
詳細を以下のステップで解説します。
1. ネーター・カレントとチャージ(場の理論)
場の理論では、ラグランジアン密度 $\mathcal{L}(\phi, \partial_\mu \phi)$ がある連続的な対称性を持つとき、保存するカレント $j^\mu$ が存在します。
このとき、ネーター・チャージ $Q$ は、カレントの 0 次成分(電荷密度に相当するもの)を空間積分して定義されます。
$$Q = \int d^3x \, j^0(x)$$
2. 時間並進対称性とエネルギー・運動量テンソル
時空の並進対称性($x^\mu \to x^\mu + \epsilon^\mu$)から導かれるネーター・カレントは、エネルギー・運動量テンソル $T^{\mu\nu}$ と呼ばれます。
$$T^{\mu\nu} = \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial (\partial_\mu \phi)} \partial^\nu \phi – \eta^{\mu\nu} \mathcal{L}$$
ここで、時間方向の移動($\nu = 0$)を考えると、対応するカレントは $j^\mu = T^{\mu 0}$ となります。
3. ハミルトニアン密度との一致
この「時間移動に対応するカレント」の 0 次成分 $T^{00}$ を具体的に書き下すと、次のようになります。
$$T^{00} = \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial (\dot{\phi})} \dot{\phi} – \mathcal{L}$$
ここで、共役運動量密度 $\pi = \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial \dot{\phi}}$ を使うと、
$$T^{00} = \pi \dot{\phi} – \mathcal{L}$$
となります。これはまさに、ルジャンドル変換によって定義されるハミルトニアン密度 $\mathcal{H}$ そのものです。
4. まとめ:チャージと密度の関係
したがって、両者の関係は以下のように整理できます。
- ハミルトニアン密度 $\mathcal{H}$:時間並進対称性に対応する「ネーター・カレントの密度成分($T^{00}$)」のこと。
- ネーター・チャージ $Q$:このハミルトニアン密度を全空間で積分した「全エネルギー(ハミルトニアン $H$)」のこと。
$$H = \int d^3x \, \mathcal{H} = \int d^3x \, T^{00}$$
補足:物理的な意味
この関係は、前回の回答にあった「生成子」の考え方を場の理論に拡張したものです。
- ネーター・カレント ($T^{\mu 0}$) は、時空の各点におけるエネルギーや運動量の流れを記述します。
- ハミルトニアン密度 ($\mathcal{H}$) は、その地点に存在する「時間発展を促す源」の密度です。
- 全ハミルトニアン ($H$) は、システム全体の時間発展(シュレディンガー方程式やハイゼンベルク方程式)を司るネーター・チャージとなります。
「密度(局所的な性質)」を空間でかき集めたものが「チャージ(系全体の保存量)」になる、という非常に綺麗な階層構造になっています。

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