粗視化(Coarse Graining)――エントロピー増大のトリック

粗視化(そしか、(英: coarse graining)とは、ある変数空間で定義された連続的な物理量を、その変数を任意の単位スケールで離散化し、単位スケール内で物理量の平均を取ることで、その物理量そのものも離散化し情報量を減らす手法。単純に言うと、モザイクを掛ける事、解像度を下げる事がこれに相当する。解像度の高い空間から低い空間への射影操作であるとも言える。可逆な基礎方程式(ニュートン方程式など)から不可逆な現象(エントロピー増大則など)を説明するためのトリックの一つだと考えられている。

「エントロピーが増える」という言葉は有名ですが、実は「何をもって『状態』とするか」という人間の視点(粗視化)が深く関わっています。

高校生の方でも直感的に理解できるよう、提示されたボールの例を使って噛み砕いて解説しますね。


1. そもそも「エントロピー」って何?

エントロピーを一言で言うと、「その状態の『ありふれ具合(確率の大きさ)』」のことです。

  • エントロピーが小さい: めったに起きない、特別な状態(整列しているなど)
  • エントロピーが大きい: よくある、ありふれた状態(バラバラなど)

自然界は放っておくと「珍しい状態」から「ありふれた状態」へ進むので、エントロピーは増えていくのです。


2. 「細かく見すぎる」とエントロピーは増えない?

まず、4つの箱(イ・ロ・ハ・ニ)をめちゃくちゃ精密に観察した場合を考えます。

条件

  • ボールは2個(AさんとBさん)。
  • 1つの箱に1個まで。
  • 4つの箱をすべて別物として区別する。

このとき、どのパターン(配置)になっても、計算上の「配置数 $w$」は常に「2」になります。 なぜなら、どの箱の組み合わせを選んでも「Aが左、Bが右」と「Bが左、Aが右」の2通りしかないからです。

  • 結論: どこにボールが移動しても「ありふれ具合($w=2$)」が変わらないので、エントロピー $s = k_B \ln w$ もずっと一定のまま。変化が見えません。

3. 「ざっくり見る(粗視化)」と法則が現れる!

次に、箱を2つのグループに分けて「ざっくり」見てみましょう。これが「粗視化」です。

  • グループ白: 箱(イ・ロ)
  • グループ桃: 箱(ハ・ニ)

「どの箱に入っているか」という細かい情報は捨てて、「どっちの色のグループに何個入っているか」だけを気にすることにします。

状態の変化を見てみる

すると、場所によって「ありふれ具合($W$)」に差が出てきます。

  1. パターン1(全部「白」に固まっているとき)
    • 白に2個、桃に0個。この組み合わせは $W=1$ 通りしかありません。(とても珍しい、特別な状態)
  2. パターン2〜5(「白」と「桃」に分かれたとき)
    • 白に1個、桃に1個。この組み合わせは $W=2$ 通りあります。(白に固まっているより「ありふれた」状態)

エントロピーが増える仕組み

もし最初に、ボールが2個とも「白グループ」に固まっていたとします(パターン1)。

時間が経ってボールが適当に動き回ると、多くの場合は「白と桃に1個ずつ」という状態(パターン2〜5)に移りますよね?

このとき、配置数 $W$ は 1 → 2 へと増えています。

これに合わせて、エントロピー $S = k_B \ln W$ も増加します。これが「エントロピー増大の法則」の正体です。


4. なぜ「粗視化」が必要なのか?

私たちは、空気中の分子ひとつひとつの位置なんて見ていません。「部屋の右側に空気が固まっているか、全体に広がっているか」というざっくりした情報(温度や圧力)だけを見ています。

  • 細かく見すぎる(顕微鏡視点): すべての状態が「1点もの」として区別されるため、変化が起きても「珍しさ」が変わらない。
  • ざっくり見る(人間視点): 「バラバラな状態」は「固まっている状態」よりも圧倒的に組み合わせの数(配置数)が多い。だから、自然とバラバラな方へ向かうように見える。

まとめ:

エントロピーが増えるのは、私たちが細かい情報をあえて無視して、「似たような状態をひとまとめ(粗視化)」にして観察しているからなのです。


この「情報の捨て方」によって物理法則の見え方が変わるという考え方は、現代物理学でも非常に重要な視点です。

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