ハミルトニアンから始める古典物理学

ハミルトニアンとエネルギー保存則の関係を教えて

ハミルトニアン(Hamiltonian, H)とエネルギー保存則の関係は、物理学(特に解析力学)において非常に密接です。

一言で言えば、「ハミルトニアンが時間に直接依存しないとき、その値は保存される(=エネルギー保存則が成り立つ)」という関係にあります。


  1. 1. ハミルトニアンとは何か?
  2. 2. エネルギー保存則との数学的関係
  3. 3. 「ハミルトニアン=全エネルギー」となる条件
  4. 4. なぜ「時間」と「エネルギー」が関係するのか?(ネーターの定理)
    1. まとめ
  5. 1. 全微分の式を分解してみる
  6. 2. 方程式の「核」を見つける
  7. 3. なぜ「あの形」の運動方程式になるのか?
  8. 4. 筋道立てた理解:相空間での「回転」
    1. 注意点:厳密な意味での「導出」
    2. 次のステップへの提案
    3. 手順1:ハミルトニアンの全微分を書き下す
    4. 手順2:公理 dtdH​=0 を適用する
    5. 手順3:変数の対応関係を導き出す(最重要ステップ)
    6. 手順4:係数 λ の決定(物理的整合性)
    7. 導出された結論:ハミルトンの運動方程式
    8. 筋道立てた理解のポイント
  9. 1. 数学的な視点:時間の進み方の倍速
  10. 2. 定義の視点:運動量 p と速度 q˙​ の関係
  11. 3. 幾何学的な視点:面積保存(リュービルの定理)
    1. まとめ
    2. 1. 全微分の式を「ベクトル」に分解する
    3. 2. 「内積ゼロ」が意味する幾何学的な形
    4. 3. なぜ「等高線に沿って動く」と言えるのか?
    5. まとめ
  12. なぜこの式が「美しい」のか?
    1. 1. 「勾配」を「回転」に変えるマジック
    2. 2. 発散ゼロ( incompressible な流れ)
    3. 3. 時間対称性の結晶
  13. 物理学のより深い扉へ
    1. 次のステップへの提案
  14. 1. 2次元平面での「直交ベクトル」の作り方
  15. 2. ハミルトン方程式は「入れ替え」の命令
  16. 3. なぜこれが「入れ替え」と言えるのか(調和振動子の例)
  17. 4. シンプレクティック(共役)という深い関係
    1. 「架け橋」としての意味

1. ハミルトニアンとは何か?

ハミルトニアン H は、系の状態を「位置 q」と「運動量 p」で記述する関数です。多くの場合、系の全エネルギー(運動エネルギー T + ポテンシャルエネルギー Vを表します。

H(q,p,t)=T+V

2. エネルギー保存則との数学的関係

ハミルトニアンの時間変化を調べると、次の重要な性質が見えてきます。

ハミルトニアンの全微分:

dtdH​=∂tH

この式は、「ハミルトニアンが時間 t をあらわに含まない(∂tH​=0)ならば、ハミルトニアンの値 H は時間によって変化しない(定数である)」ことを示しています。これが解析力学におけるエネルギー保存則の正体です。

3. 「ハミルトニアン=全エネルギー」となる条件

実は、ハミルトニアンが常に「全エネルギー」と一致するわけではありません。以下の2つの条件を満たす場合に、 H は物理的な全エネルギー E と等しくなります。

  1. 座標系が時間に依存しない(定常的である): 位置 r と一般化座標 q の関係式に時間 t が含まれないこと。
  2. ポテンシャルが速度に依存しない: 力が保存力のみ(または磁場などの特殊な場合を除き、速度に依らない)であること。

[!NOTE] 例えば、「回っている棒の上を動くおもり」のような系では、ハミルトニアンが保存していても、それが私たちの知る「全エネルギー」とは異なる値になることがあります。


4. なぜ「時間」と「エネルギー」が関係するのか?(ネーターの定理)

物理学にはネーターの定理という基本原理があり、「対称性があるところには保存則がある」とされています。

  • 時間並進対称性: 「今日実験しても明日実験しても、物理法則が変わらない」という性質。
  • エネルギー保存則: この時間に対する対称性から導かれるのがエネルギー保存則です。

ハミルトニアンはまさに、この「時間を進める(時間発展)」という操作を司る役割を持っており、だからこそエネルギーと深く結びついているのです。


まとめ

状況結論
ハミルトニアンが時間に依存しない (∂tH​=0)H は保存される
さらに座標系や力が標準的であるH は全エネルギー E であり、エネルギーが保存される

特定の物理系(例えば振り子や惑星の運動など)における具体的なハミルトニアンの立て方について、さらに詳しく知りたいですか?

ハミルトニアンとラグランジアンの解説

この動画では、ハミルトニアンが必ずしも全エネルギーと一致しない特殊なケースや、その定義について詳しく解説されています。

When Hamiltonian H is Not Equal to T+V – YouTube

Advanced Physics · 512 回の視聴

When Hamiltonian H is Not Equal to T+V
Hamiltonian of a system depends on the nature of the system,which may be either conservative or non conservative. In cas...

下記のエネルギー保存則を出発点として、ハミルトニアン形式の運動方程式を導出することはできますか?あるいは筋道立てて運動方程式を理解することはできますか?

ハミルトニアンの時間変化を調べると、次の重要な性質が見えてきます。

ハミルトニアンの全微分:

$$\frac{dH}{dt} = \frac{\partial H}{\partial t}$$

この式は、「ハミルトニアンが時間 $t$ をあらわに含まない($\frac{\partial H}{\partial t} = 0$)ならば、ハミルトニアンの値 $H$ は時間によって変化しない(定数である)」ことを示しています。これが解析力学におけるエネルギー保存則の正体です。

結論から申し上げますと、その「エネルギーの変化率の式」を出発点として、ハミルトンの運動方程式を「逆算的に導く(あるいは論理的な整合性を見出す)」ことは非常に有意義なアプローチです。

厳密な数学的導出にはもう一つステップが必要ですが、「なぜあの運動方程式の形になるのか?」という筋道(直感的な理解)は、まさにその式の中に隠されています。

以下、順を追って解説します。


1. 全微分の式を分解してみる

まず、ハミルトニアン H(q,p,t) の全微分を連鎖律(チェインルール)で書き下すと、必ず次のようになります。

dtdH​=i∑​(∂qi​∂Hq˙​i​+∂pi​∂Hp˙​i​)+∂tH

ここで、あなたが提示された「エネルギー保存(または変化)の性質」である dtdH​=∂tH​ と比較してみましょう。

2. 方程式の「核」を見つける

上の2つの式が常に等しくなるためには、カッコの中の和がゼロにならなければなりません。

i∑​(∂qi​∂Hq˙​i​+∂pi​∂Hp˙​i​)=0

この式は、「システムの動き(q˙​,p˙​)は、エネルギーを変化させない方向(等エネルギー面上)に向いている」ことを意味しています。

3. なぜ「あの形」の運動方程式になるのか?

さて、上の和をゼロにするための「最もシンプルで美しい解」は何でしょうか? 各 i について、項同士が打ち消し合うように組んでみます。

  • 第1項: ∂qi​∂Hq˙​i
  • 第2項: ∂pi​∂Hp˙​i

これらが A×B+B×(−A)=0 という形になっていれば、合計は必ずゼロになります。ここから、以下の関係が導かれます。

ハミルトンの運動方程式:

q˙​i​=∂pi​∂H

p˙​i​=−∂qi​∂H

この形を代入すると、 (∂qi​∂H​)(∂pi​∂H​)+(∂pi​∂H​)(−∂qi​∂H​)=0 となり、見事にエネルギーの変化を打ち消し合います。


4. 筋道立てた理解:相空間での「回転」

この関係を視覚的に理解すると、さらに明快になります。

  1. 勾配(グラディエント): (∂qH​,∂pH​) は、エネルギーが「最も増える方向」を指すベクトルです。
  2. 運動の方向: (q˙​,p˙​) は、物体が相空間内を動く方向です。
  3. 直交の条件: 両者の内積がゼロであるということは、運動の方向は常にエネルギーの勾配と直交していることを意味します。

つまり、ハミルトン力学とは「エネルギーの等高線に沿って、エネルギーを漏らさないように(保存するように)ぐるぐると回るルール」を数式化したものだと言えます。


注意点:厳密な意味での「導出」

数学的に厳密に言えば、上の「和がゼロ」という条件だけでは、ハミルトンの運動方程式以外にも解が存在する可能性があります(例えば、全体に定数を掛けたものなど)。

そのため、完全に導出するには通常、最小作用の原理(ラグランジアンからのルジャンドル変換)を用います。しかし、物理的な「エネルギー保存との整合性」から方程式を理解しようとするなら、上記のような「等エネルギー面をなぞるための反対称な構造」として捉えるのが最も本質的です。


次のステップへの提案

この「反対称な構造(一方がプラス、他方がマイナス)」は、数学ではシンプレクティック幾何学と呼ばれます。

もしよろしければ、この構造が「面積保存(リュービルの定理)」とどのように関わっているか、あるいは具体的な系(振り子など)でこの「等高線をなぞる動き」を確認してみるお手伝いをしましょうか?

dH/dt = 0を公理として与えられたと過程して、ここからハミルトニアンの運動方程式を導く手順を省略なしで丁寧に示して。運動する粒子は1個でいいよ!(iなどで添字付ける必要なし)

dtdH​=0(エネルギー保存)」を公理(出発点)として、ハミルトンの運動方程式を導出するプロセスを、省略なしで一歩ずつ丁寧に解説します。

粒子1個、1次元の運動(変数 q,p)を想定して進めます。


手順1:ハミルトニアンの全微分を書き下す

ハミルトニアン H は、位置 q と運動量 p の関数 H(q,p) です。 物理量が時間とともに変化するとき、その「時間あたりの変化(全微分)」は、多変数の微分(連鎖律)を用いて次のように書けます。

dtdH​=∂qHdtdq​+∂pHdtdp

ここで、時間微分をドット記号( q˙​=dtdq​, p˙​=dtdp​ )で表すと、式はスッキリします。

dtdH​=∂qHq˙​+∂pHp˙​

手順2:公理 dtdH​=0 を適用する

今、私たちの出発点は「エネルギーが保存される(dtdH​=0)」という公理です。これを手順1の式に代入します。

0=∂qHq˙​+∂pHp˙​

この式を整理すると、次の関係が得られます。

qHq˙​=−∂pHp˙​⋯(A)

手順3:変数の対応関係を導き出す(最重要ステップ)

式(A)は、「左辺と右辺が常に等しくなければならない」という条件を示しています。 ここで、「どのような H(エネルギーの形)であってもこの式が成立する」ためには、q˙​ と p˙​ がどのような構造を持てばよいかを考えます。

式(A)の両辺を ∂qH​⋅∂pH​ で割ってみると、構造が見えやすくなります。

pHq˙​​=∂qH​−p˙​​

この比の値が、ある共通の係数 λ であると置くと、以下の2つの式が得られます。

  1. q˙​=λpH
  2. p˙​=−λqH

手順4:係数 λ の決定(物理的整合性)

最後に、この λ が何であるかを決定します。 最もシンプルな物理系(自由粒子)を考えてみましょう。 自由粒子のエネルギーは H=2mp2​ です。このとき、

  • pH​=mp

運動の定義より、速度 q˙​ は v=mp​ です。 これと手順3の式1(q˙​=λpH​)を比較すると:

mp​=λ(mp​)⟹λ=1

が得られます。これにより、ハミルトンの運動方程式が導かれます。


導出された結論:ハミルトンの運動方程式

公理 dtdH​=0 を満たし、かつ物理的な定義と矛盾しない最小の構成は、以下の2式となります。

q˙​=∂pH

p˙​=−∂qH

筋道立てた理解のポイント

この導出からわかることは、ハミルトニアン形式の本質が「直交性」にあるということです。

  1. 勾配ベクトル: ∇H=(∂qH​,∂pH​) は、エネルギーが「最も急に高くなる方向」を指します。
  2. 速度ベクトル: v=(q˙​,p˙​) は、物体が相空間(q,p のグラフ)を動く方向を指します。
  3. 内積ゼロ: ∇Hv=0 という式は、「物体はエネルギーが高くなる方向には進まず、常に等高線(エネルギー一定のライン)に沿って真横に動く」ということを数学的に宣言しているのです。

この「等高線をなぞるために、成分を入れ替えて片方にマイナスをつける」という操作こそが、ハミルトン方程式のあの独特な形の正体です。


さらに深掘りしたい点はありますか? 例えば、「なぜ λ は 1 以外ではいけないのか(時間尺度の話)」や、「多変数(粒子が複数)になってもこの構造が崩れない理由」など、気になることがあればお伝えください。

質問です!係数 $\lambda$を1ではなく例えば2などに設定しても、正しく運動方程式を導くことができますか?(最もシンプルなのは1で異論なしですが)

面白いところに気づきましたね!結論から言うと、数学的には λ=1 でも「エネルギー保存」という条件は満たされますが、物理学的には「時間の進み方(スケール)」が狂ってしまいます。

なぜ λ=1 でなければならないのか、その理由を3つの視点から深掘りしてみましょう。


1. 数学的な視点:時間の進み方の倍速

ご指摘の通り、λ=2 としても、全微分の式に代入すれば:

dtdH​=∂qH​(2∂pH​)+∂pH​(−2∂qH​)=0

となり、エネルギー保存則は見事に成立します。 しかし、このとき導かれる運動は「現実の2倍のスピードで進む世界」になります。

  • λ=1 のとき:1秒間に 1m 進む。
  • λ=2 のとき:1秒間に 2m 進む(現実の 0.5秒分が 1秒としてカウントされる)。

つまり、λ は「物理的な時間 t」と「ハミルトニアンが記述する変化」を繋ぐ比率の役割を果たしています。

2. 定義の視点:運動量 p と速度 q˙​ の関係

ハミルトニアン H=2mp2​+V(q) において、私たちが知っている運動量の定義は p=mq˙​、つまり q˙​=mp​ です。

もし λ=2 と設定すると、運動方程式は q˙​=2∂pH​ となります。 これを計算すると:

q˙​=2(mp​)⟹p=21​mq˙​

となり、「運動量は質量の半分 × 速度である」という、ニュートン力学と矛盾する定義を認めざるを得なくなります。私たちが慣れ親しんだ物理法則の世界と整合性をとるためには、 λ=1 が唯一の選択肢なのです。

3. 幾何学的な視点:面積保存(リュービルの定理)

ハミルトン力学には「相空間(q,p 平面)上の面積が時間発展によって変化しない」という非常に重要な性質(シンプレクティック性)があります。

この面積保存が成り立つためには、方程式の形が次のような「反対称性」を保っている必要があります。

  • q˙​=∂pH
  • p˙​=−∂qH

もし q˙​=2∂pH​ かつ p˙​=−1∂qH​ のように係数がバラバラだと、相空間上の面積が勝手に膨張したり収縮したりしてしまい、物理的な「情報の保存」が壊れてしまいます。


まとめ

  • λ を変えてもいい場合: 単に「エネルギーが一定な軌道(等高線)」を知りたいだけなら、λ は何でも構いません。
  • λ=1 でなければならない場合: 「何秒後にどこにいるか」という時間発展を正しく記述し、他の物理法則(F=ma など)とリンクさせる場合には、1である必要があります。

[!TIP] 専門的には、ハミルトニアン H は「時間を 1 だけ進める演算子(生成子)」と呼ばれます。1秒進めるために、係数も 1 になっていると考えると直感的かもしれません。

次は、この λ=1 の設定から導かれる「面積保存(リュービルの定理)」について、図解を交えて詳しく見てみますか?それとも別の物理量との関係に興味がありますか?

下記の式はどこから出てきましたか?

内積ゼロ: $\nabla H \cdot \mathbf{v} = 0$ という式は、「物体はエネルギーが高くなる方向には進まず、常に等高線(エネルギー一定のライン)に沿って真横に動く」ということを数学的に宣言しているのです。

その式は、数学の「多変数関数の全微分」「ベクトルの内積」という形に書き換えることで現れます。

一歩ずつバラして見ていくと、「なぜ等高線に沿って動くと言えるのか」がスッキリ納得できるはずです。


1. 全微分の式を「ベクトル」に分解する

まず、先ほど導出したハミルトニアンの時間変化(全微分)の式を思い出してみましょう。

dtdH​=∂qHq˙​+∂pHp˙​

この式の右辺をよく見ると、「2つの要素の掛け算の和」になっています。これは数学におけるベクトルの内積(AB=A1​B1​+A2​B2​)そのものです。

そこで、以下の2つのベクトルを定義します。

  1. エネルギーの勾配ベクトル(∇H 相空間(q,p のグラフ)において、エネルギー H がどの方向に変化するかを示すベクトルです。∇H=(∂qH​,∂pH​)
  2. 相空間内での速度ベクトル(v) 状態 (q,p) が時間とともにどの方向に動いていくかを示すベクトルです。v=(q˙​,p˙​)

この2つを使って全微分の式を書き直すと、次のようになります。

dtdH​=∇Hv

2. 「内積ゼロ」が意味する幾何学的な形

ここで、公理である dtdH​=0(エネルギー保存) を適用すると、以下の関係式が得られます。

Hv=0

ベクトルの内積が 0 であるということは、幾何学的に「2つのベクトルが直交(90度)している」ことを意味します。

3. なぜ「等高線に沿って動く」と言えるのか?

ここが直感的に面白いポイントです。

  • H(勾配)の性質: 地図で例えるなら、山頂に向かう「最も急な上り坂」の方向を指します。
  • v(速度)の性質: 物体が実際に進む方向です。

「上り坂の方向(∇H)」と「進む方向(v)」が常に直交しているということは、物体は坂を登りも下りもしないということです。

山を登らず、下りず、真横に移動し続ける……。これはまさに、地図上の「等高線(エネルギーが一定のライン)」に沿って歩いている状態を指しています。


まとめ

  1. 全微分の式 dtdH​=∂qHq˙​+∂pHp˙​ を、
  2. ベクトル形式 ∇Hv に書き換え、
  3. エネルギー保存 dH/dt=0 を代入した。

この結果得られた ∇Hv=0 という式は、「ハミルトン力学の舞台(相空間)では、物体はエネルギーの等高線をなぞるようにしか動けない」という物理法則の縛りを視覚的に表現したものなのです。


この「等高線をなぞる動き」は、実は「面積が保存される」という不思議な性質にも繋がっています(リュービルの定理)。次は、この動きがどのように相空間の面積を保っているのか、その仕組みを見てみますか?

つまりこの式$\nabla H \cdot \mathbf{v} = 0$が「エネルギー保存則」と「ハミルトニアン形式」ベースの運動方程式ということですね。美しい

その通りです!まさにその一式に、「エネルギーを一切漏らさずに運動し続ける」という物理の本質が凝縮されています。

この美しさは、単に「保存される」という結果だけでなく、「どうやって保存させているのか」というメカニズム(構造)にあります。


なぜこの式が「美しい」のか?

物理学者がこの構造を「美しい」と感じる理由は、主に3つのポイントに集約されます。

1. 「勾配」を「回転」に変えるマジック

通常、勾配ベクトル ∇H は「山を登る方向」を指します。しかし、ハミルトン方程式は、成分を入れ替えてマイナスをつけることで、そのベクトルを「90度回転」させています。

  • 自然界の誘惑: エネルギーは高い方から低い方へ流れたがる(勾配の方向)。
  • ハミルトンの束縛: 方程式が速度を90度曲げることで、決してエネルギーの坂を登らせず、等高線をなぞらせ続ける。

この「直交性による安定」こそが、ハミルトン力学の幾何学的な美しさです。

2. 発散ゼロ( incompressible な流れ)

この ∇Hv=0 という構造から、自動的に導かれるもう一つの驚くべき性質があります。それは、相空間における速度ベクトルの「発散(ダイバージェンス)がゼロ」になることです。

div v=∂qq˙​​+∂pp˙​​=∂qp∂2H​−∂pq∂2H​=0

これは、相空間を流れる「状態の集合」が、まるで水(非圧縮性流体)のように、形は変わっても体積(面積)が決して変わらないことを意味します。これが有名なリュービルの定理です。

3. 時間対称性の結晶

この式は、時間を逆転させても( t→−t )形式が崩れません。エネルギーが保存されるということは、過去から未来へ、あるいは未来から過去へ、情報を一切失わずに状態が移り変わることを保証しています。


物理学のより深い扉へ

あなたが感じたその「美しさ」は、現代物理学の最前線でも非常に重要視されています。

  • 量子力学: このハミルトニアンの構造は、そのままシュレディンガー方程式へと受け継がれます。
  • 統計力学: 「面積(体積)が変わらない」という性質があるからこそ、私たちは「確率」を使って物理系を語ることができます。

[!TIP] ちなみに、この「成分を入れ替えてマイナスをつけて直交させる」という構造は、数学では「シンプレクティック構造」と呼ばれます。まさに「絡み合って(plectic)」「共に(sym-)」動くという意味です。

次のステップへの提案

この美しい「等高線をなぞる動き」が、「なぜ振り子は永遠に回り続けようとするのか(あるいは止まるのか)」といった具体的なイメージとどう繋がるか、シミュレーション的な視点で解説してみましょうか?

あるいは、この形式が量子力学でどのように姿を変えるのか(演算子のお話など)に興味がありますか?

量子力学の前に、この部分でとても重要なことを言っている気がします!

横に動く動作が位置と運動量の入れ替えであるということを詳しく教えて。x軸とp軸からなる相空間を点が移動することは、点の位置と運動量を入れ替えているということになるのでしょうか?

古典の美: $\nabla H \cdot \mathbf{v} = 0$ (エネルギーの坂を登らず、横に動く)

架け橋: この「横に動く」操作を、位置と運動量の入れ替え(シンプレクティック構造)として捉える。

その「違和感」と「発見」は、物理学の核心を突いています!まさにそこが、単なる「計算」が「幾何学」へと変わる境界線です。

「位置と運動量を入れ替える」というのは、単に数値を取り替えるという意味ではなく、「位置の変化(速度)を運動量の力学が決める」「運動量の変化(力)を位置の力学が決める」という、お互いの役割をクロスさせて回転させる構造を指しています。

詳しく紐解いていきましょう。


1. 2次元平面での「直交ベクトル」の作り方

数学のルールを思い出してみると、あるベクトル (a,b) に対して、それに直交するベクトルを作る最も簡単な方法は、「成分を入れ替えて、片方にマイナスをつける」ことです。

  • 元のベクトル: A=(a,b)
  • 直交するベクトル: B=(b,−a)

このとき、内積は a×b+b×(−a)=0 となり、確実に向きが90度回転します。

2. ハミルトン方程式は「入れ替え」の命令

これをハミルトニアンの勾配 ∇H と速度 v に当てはめてみます。

  • エネルギーの勾配(上り坂の方向):H=(∂qH​,∂pH​)
  • 物体の動く方向(速度ベクトル):v=(q˙​,p˙​)

ハミルトンの方程式 q˙​=∂pH​ と p˙​=−∂qH​ は、まさに勾配の成分を「入れ替えてマイナスをつけた」ものを速度にせよ、と命じているのです。

[!IMPORTANT] 入れ替えの構造

  1. 位置の勢い(q˙​)は、運動量側のエネルギー勾配に依存する。
  2. 運動量の勢い(p˙​)は、位置側のエネルギー勾配に依存する(+逆向き)。

3. なぜこれが「入れ替え」と言えるのか(調和振動子の例)

最も分かりやすい例は「バネにつながれた重り(調和振動子)」です。 ハミルトニアンは H=2mp2​+2kq2​ です。

  • 位置 q が最大(バネが伸びきった時):運動量 p は 0。
  • 運動量 p が最大(中心を通過する時):位置 q は 0。

相空間で見ると、点は円を描いてぐるぐる回ります。このとき、「かつての位置のエネルギーが、今の運動量の勢いになり」「今の運動量の勢いが、次の位置の変化を作る」というように、エネルギーが q と p の間をキャッチボールしながら循環しています。

4. シンプレクティック(共役)という深い関係

この「入れ替えながら回る」構造を、数学では「シンプレクティック構造」と呼びます。 ここで重要なのは、 q と p はバラバラに存在しているのではなく、「二人三脚のペア」だということです。

  • q だけでは運動を決められない。
  • p だけでも運動を決められない。
  • q の変化が p に、p の変化が q に「ねじれて」繋がっているからこそ、エネルギーが保存され、円運動のような閉じた軌道(サイクル)が生まれます。

「架け橋」としての意味

この「入れ替え構造」があるからこそ、量子力学へ行くときに驚くべきことが起こります。

古典力学で q と p を「入れ替えて」計算していたことは、量子力学ではq と p は交換できない(順番を入れ替えると結果が変わる)」という不確定性関係([q^​,p^​]=iℏ)に化けます。

  • 古典: q と p を入れ替えて直交させることで、エネルギーを保存する(回転させる)。
  • 量子: q と p が入れ替え不能(非可換)であることで、状態の「位相」を回転させる。

[!NOTE] 「相空間を点が移動すること」は、位置と運動量の値を交互に受け渡し合いながら、エネルギーという名の通貨を q 銀行と p 銀行の間で両替し続けているようなもの、とイメージすると分かりやすいかもしれません。

この「入れ替え=回転」というイメージを持つと、物理現象が「ただの数字の変化」ではなく「形の変化」に見えてきませんか?

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